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グリーンランドの犬とアザラシの手袋の関係 
ユースの食堂で、Birgitteが毛皮に囲まれて縫い物をしていた。
アザラシの皮の手袋が山のようにできあがっている。
色、形、大きさは様々で、染めていない自然なグレー、真紅、グリーンなど。 
 ミトンをつくるBirgitte、一組作るのに1時間から3時間かかる。
 
「縫うの、むずかしい?」とBirgitteに聞くと、「そんなに難しくないし、ミシンを使うところと手で縫うところがあって、
今日みたいにどんよりとした雨模様の天気の日には、ちょうどいい作業よ。」と彼女はいう。
 
 アザラシの皮、一枚300DKKくらい。
 
暖かく、毛はツルツルした感触。手のひらの部分も、毛をはいで、なめしたアザラシの皮を使っている。
手首にあたる部分の毛は、北部のグリーンランド・ハスキーのもの。 
 アザラシの皮とグリーンランド・ハスキーの毛でつくったミトン。
 
犬ぞりで活躍した犬は、年をとり、衰え、もはやソリが引けなくなると、銃で撃ち殺され、
このように手袋に生まれ変わる。「ヨーロッパの乳牛のようなものね。」とデンマーク生まれのBirgitteはいう。 
グリーンランド、ウマナック生まれのArneにこの話をしたら、そうは思わない、と反論が返ってきた。
 「グリーンランド・ハスキーは、家畜とは違う。犬ぞりの仕事を全う(まっとう)し、それができなくなると、
毛皮に生まれ変わり、もう一度人間の役に立ってくれる。じつに無駄がないじゃないか。」
 
ナルサスアックでは犬の散歩をしている人をよく見かける。
知り合いになったHugoとBerthaも2匹飼っている。
先週末、2人と子供たちはスノーモービルで山に遊びに出かけたが、
そのときも犬たちはキャンキャン雪の上を転がり回りながら、あとをついて行った。 
「グリーンランドの犬は、いきなりがぶっと噛むから気をつけて。」と大場さんに教わっていたので、
放たれた犬たちを見て、最初は恐れおののいた。
すると、Hugoの犬が私の後ろに回って、おしりの辺りの匂いを、くんくんかぎはじめた。「はじめて会った人には、かならずそうするんだ。あいさつだから許してあげて。」と苦笑した。
 
南部には羊の牧場がある。そこでは牧羊犬(ぼくようけん)として働く犬たちもいる。
犬ぞりが生活や狩猟の大事な手段である北部と、犬ぞりが必要ない南部とでは、
犬とのつきあい方もだいぶ違うらしい。 
Kaffemik(カフェミック)
 
4月7日は、Berthaの誕生日。Brigitteが腕をふるって作ってくれたグリーンランドの新鮮なエビを使ったカレースープを堪能したあと、
カフェミックに行った。Jackyが、Berthaの誕生日だからカフェミックに行こうと言っていたので、
てっきりカフェミックという店があり、そこでパーティがあるのだろうと思っていた。
カフェミックって、かわいらしい名前ね、とBirgitteにいうと、
 
 「何かの単語にミック(mik)をつけると、何かをみんなで一緒に、ていう意味になるのよ。
たとえば、ダンスミックなら、みんなで一緒にダンスを楽しむっていうふうにね。」と教えてくれた。
 
 だからカフェミックならば、みんなで一緒に、お茶を飲んだり、ケーキを食べたり、おしゃべりを楽しむ、
ということだそうだ。
 
ガタンゴトンと車はゆれて、一軒の民家の前に止まった。窓からはあたたかな灯り(あかり)がもれている。
 「ここがカフェミック?」
 「そうだよ。Hugoたちの家だよ。」
 といってJackyはずんずん家の中に入っていく。
 
 ドアを開けると、中にはHugo、Berthaの家族と、小さな赤ちゃんを連れた若い夫婦がソファでくつろいでいた。
テーブルの上には、飾り付けられたケーキやお菓子が、所狭し(ところせまし)と並べられていた。
 
 手作りのケーキ、若干甘めだったが、とてもおいしかった。
 
カフェミックとは、場所ではなくて、誕生日に一日中、ドアを開け放して、入れ替わり、立ち替わり、
色んな人が立ち寄っては食べたり飲んだりして祝う、伝統的な習慣なのだという。
本来カフェミックをするのは14歳くらいまでで、37歳になるBerthaは、
本当はカフェミックするには歳をとりすぎているのだけど、おいしいものを食べて、
みんなで集まるのは楽しいからいいの!といって、幸せ満開の笑顔を見せてくれた。 
グリーンランド、フランス(Jacky)、デンマーク(Birgitte)、日本と、
さまざまな国の人たちがテーブルを囲んで、まるで国際会議みたいね、とみんなで笑った。冗談ばかり言いながら語り合っていたら、気がついたらもう時計は零時近くになっていた。
そんな時間でも、子供たちは起きて、一緒に居間でカフェミックしていた。
(翌日がイースターで、学校が休みだからかもしれないけれど) 
 カフェミック、楽しいひとときを過ごすことができた。
 
帰りがけにHugoが、いつでもドアは開いているから、遊びに来て、といってくれた。
「明日もカフェミックがあるの?」と聞くと、
はっはっはと笑い、明日はたぶんこの犬の誕生日。あさってはもう一匹の誕生日かもしれない。
いつも誰かの誕生日にして、カフェミックしようか?でも、カフェミックじゃなくても、
寄ってくれていいんだよとBerthaと笑いあっている。 
「君が心を開いて、いつも笑って、歩み寄る努力をしていたら、
きっとグリーンランドはそれに応えてくれるよ」というArneの言葉を思い出しながら、夜道を帰路についた。 
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